映画メモ:古典を極めるRエガースの執念『ノスフェラトゥ』

映画メモ

 こだわり監督ロバート・エガースの新作「ノスフェラトゥ」をユナイテッドシネマ豊橋で見た。
ノスフェラトゥは古典のムルナウ版(1922年)とKキンスキーのヘルツォーク版(1987年)があり、今回が2度目のリメイクになる。ノスフェラトゥというとブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」が原作であり、数多あるドラキュラ映画のひとつというより、むしろドラキュラ映画の正統派を名乗ってもいい作品である。

 では何故ドラキュラではくノスフェラトゥなのか。それは監督のRエガースに大きな影響を与えたのがムルナウ版の『吸血鬼ノスフェラトゥ』だったという事になるが、それ以上にBストーカーの古典世界を追求したかったのではないかという推測が立つ。すなわちそれはRエガースの過去作・・・『ウィッチ』『ライトハウス』『ノースマン導かれし復讐者』を見れば想像がつき、監督のこだわりは歴史に忠実な映像世界の構築に注力されているのだ。ブルーを基調とした陰影描写の陰湿さはこれぞゴシックホラー。ため息が出るほどだ。

 ドラキュラというとやはり『魔人ドラキュラ』のベラ・ルゴシがアイコンであり、『吸血鬼ドラキュラ』のクリストファー・リーでさえ亜流にすぎない。対してノスフェラトゥはやはり『吸血鬼ノスフェラトゥ』のマックス・シュレックがアイコンであり、ドラキュラ伯爵という怪物(人物)より超自然的な悪魔に近い。本作ではそれを当時の悪魔であるペスト(病気)も絡めて古典世界を映像化していく。ムルナウ版の”オルロック伯爵”という名前も残し、ドイツ表現主義による恐怖イメージの再現はオリジナルをリスペクトしている。

 そんなわけで この映画は過去のRエガース作品と同じくエンターテインメントとは一線を画しており、どことなく文学の香りを感じさせる演出になっている。ビジュアルこそ今風の恐怖演出があるものの、原作の散文的なイメージも残している。そのせいか物語の運びは結構乱暴に感じ、場面転換の多さが鼻につく。例えば急に精神異常者(レンフィールド)を出されても原作を知らない観客にはピンとこないだろう。ラストのオルロック伯爵の城への襲撃場面などは位置関係が伝わりにくい。原作要素を詰め込み過ぎたようだ。

 怪物の宿敵であるヴァン・ヘルシング教授の位置付けにウィレム・デフォーを配しているのはなかなか面白いが、完全に脇役に置いている点は原作ファンからするとむしろニヤリとさせられる。87年版のKキンスキーのノスフェラトゥのようにWデフォー怪演のノスフェラトゥも見てみたい気がする。物語の軸にノスフェラトゥとリリー・ローズ・デップの性愛ロマンスがあるところが本作のオリジナリティである。しかし何故二人が惹き合う関係にあるのかが分からない。

 Rエガースの次作は狼男だそうだ。なるほど。いつかはメアリー・シェリーのフランケンシュタインも古典タッチでやってほしい。

満足度:★★★☆(5点満点中3.5点)

・原題:NOSFERATU
・製作年:2024年
・上映時間:133分
・監督・脚本:ロバート・エガース
・撮影:ジェアリン・ブラシュケ
・音楽:ロビン・キャロラン
・主な出演:
  ビル・スカルスガルド(オルロック伯爵)
  ニコラス・ホルト(トーマス)
  リリー=ローズ・デップ(エレン)
  アンナ・ハーディング(エレンの友人)
  ウィレム・デフォー(アルビン・エーバーハルト・フォン・フランツ教授)